八百屋は順調に売上も右肩上がりで伸びていた。店先での販売に加え、飲食店への卸売や領主城への納品が大きな収益源となっている。
特に、領主城との取引があることで「信頼できる店」としての評判が広まり、飲食店からの注文が次々と増えていた。その結果、地域の商人や料理人たちの間でも注目される存在となり、さらに売上の拡大が期待できそうだ。
急激に儲かりだすと……同じように問題も急激に増えてくる。古くからやっている八百屋に、ギャングのような者たちに目をつけられる。
度々、野菜を買ったら傷んでいたとか言うクレームや……保護してやるから金を払えとか。
俺がいる場合は、蹴散らし追い払えるが……いなかった時が問題だ。八百屋に警備や護衛を雇うのは違う気がする……。高級品のアクセサリーや武具に高額の現金を取り扱う店なら分かるけど。
少し前に、八百屋に言いがかりを付けてきた盗賊かチンピラを丁重にお帰り願ったのだが、聞き入れてもらえるわけもなく。強制的にお帰りいただいた。
どうやら雇い主の本人がお出ましになられたみたいだな。
後から聞いた話だと、他の店にも訪れて安全料として金を請求していたらしい。断ると店を荒らして、町の衛兵や警備兵を呼んでも紋章を見ると手出しをすることなく引き上げたらしい。
彼女は堂々とした足取りで現れた。美しく整えられた金色の髪は揺れるたびに光を反射し、まるで繊細な絹糸のように輝いている。
彼女の身を包むのは、燃え上がるような鮮烈な赤色のショートドレス。緻密な刺繍が施されたその生地は、光の加減で優雅な艶を放ち、気品と大胆さが絶妙に混ざり合っている。肩を少し見せるデザインは、彼女の気高い佇まいをより強調し、動くたびに裾が軽やかに揺れて視線を惹きつける。
その顔には幼さの中に漂う確固たる自信があり、強気な瞳は目に映るすべてを支配するような気迫を放っている。唇の端にはわずかな不機嫌さが滲み、まるで自分の望む通りにならないことに納得していないかのようだ。
周囲の者たちが彼女の視線に戸惑いを見せる中、彼女はゆっくりと顎を上げ、まるで当然のように言い放つ。「ちょっと、あんたねっ! よくも、わたしの雇った冒険者たちを痛めつけてくれたわねっ! いい度胸をしてるわね……少しばかり強いからってぇぇ。」その声は甘く、けれど確かな威圧感を持って響き渡った。
そんな彼女は、どこかの貴族か領主の紋の入った装備を身につけた護衛兵の後ろで怒鳴ってきた。
彼女の姿に、場の空気がわずかに緊張する。けれど、その堂々たる佇まいに見とれる者もまた少なくなかった。幼いながらも美しく可愛らしさがある。
俺は最近、女の子や美少女に耐性も付き、領主とも付き合いがあり兵士への恐怖心もなくなっている。いや、もともと兵士に対しては恐怖心はないけど。物心ついたときに森の中だったし、もともと兵士の恐ろしさを知らない上に強い者に出会ってない。「は? 人の店に言いがかりを付けてきて、営業妨害をしてきたから追い払っただけだぞ?」と言い返した。
「追い払ったって、わたしの家の紋章の入った装備をつけていたのよ? その者たちに手を出してただで済むと思ってないでしょうね? そうねぇ……、わたしの前に跪いて許しを請いなさい!」と女の子が悪そうな笑みを浮かべて言ってきた。
周りの者も怯えた表情をしているし、衛兵も駆けつけたが見て見ぬふりをしていた。相手は、結構な権力者で間違いはなさそうだけど……ここはエドウィンの領地だろ?
考え事をしてボーッとして無視していると、しびれを切らせた女の子が「ちょっと! 聞いているのかしら? いいわ、そこの無礼者をわたしの前につれてきて、跪かせなさい!」と護衛兵に指示を出した。
広場の空気が張り詰めた。 女の子の命令を受けた護衛兵たちは、わずかに動こうとしたが、ユウが微動だにせず佇んでいるのを見て、一瞬ためらった。
ユウはゆっくりと目を細め、静かに彼女を見据えた。
「……俺が跪く?」
その言葉に、女の子は腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「そうよ! わたくしの家の紋章を持つ者に手を出して、ただで済むと思って? 身の程をわきまえなさいっ!」
ユウは軽くため息をつく。
「お嬢様の家の紋章?ここはエドウィンの領地だろ?領主が変わったのか?」
その言葉に、周囲の人々の表情がわずかに揺らいだ。エドウィンの名を口にすることで、空気が変わるのを感じる。
女の子は一瞬、言葉を詰まらせたが、すぐに苛立ったように声を張り上げた。
「それがどうしたのかしら!? わたくしの家は、この町に影響を持っているのよ! そんなことも知らずに、勝手なことをして……許されると、本気で思っているのかしら?」
ユウは軽く肩をすくめる。
「許されるも何も、こっちは八百屋を守っただけだ。それを商売の邪魔だの、金を払えだの言い出したのはそっちだろ。」
女の子の顔色が変わる。彼女は護衛兵をちらりと見て、苛立たしげに息を吐いた。
「……ふん、いい度胸しているわね。でも、今さらそんな言い訳で許してもらえると思って?」
さっきまで怒鳴っていたとは思えないほど、ぽつりと落ち着いた声。 その赤い瞳は、どこか素直で、頼るように揺れていた。「……まあ、討伐が仕事だからな。」 視線を逸らしながら答えるユウの声は、なぜか落ち着かない。 リリアの柔らかさと温度が、近すぎる距離で伝わってくるせいか——。「……それに、ユウ様はとても頼りになりますわね」 くるりとユウの前に立ち、まっすぐに見つめるリリア。 その視線は真剣で、どこか期待するようだった。「……お前、いつももっと偉そうにしてるよな。」「なっ……なにを!? わたくしは常に上品に、ただ気高く……!」 途中まで勢いよく反論するも、ふと視線を泳がせ、頬が赤くなる。「……でも、その……今回は少しだけ、頼ってもいいかしら……?」「……俺に頼るって、お前らしくないな」「ち、違いますわ! わたくしはただ……状況的に仕方なく、そう、戦略的な意味で! そうですわ!」 ユウは苦笑しながら肩をすくめる。「ま、好きにしてくれ……」「ふんっ……最初からそう言えばよろしいのですわ……よ。」そう言いながらも、リリアはしっかりとユウの袖を握っていた。 森の探索を中に——ぽつり、と頬に冷たい雫が落ちた。「……あっ、雨……?」 リリアが空を見上げた瞬間、突如として空が鳴り、激しい雨が降り出した。「マズいな、こっちだ。走れ!」 ユウは手を引き、リリアを連れて駆け出す。ほどなくして、木陰の中にぽつ
その瞬間、リリアが腕にぎゅっと抱き着く。「きゃっ……! わたくし、ちょっと驚いてしまいましたわ!」——と言いつつ、頬をぷいっとそらしながら、無意識に俺へ寄り添い頬を軽く膨らませながら顔を上げる。「…………。」 ただ、頬をほんのりと赤く染め、ちらりとこちらを伺うだけだった。 ……え? いや、なんだこの可愛らしい仕草? 普段と違う、わずかに揺れる視線。 普段のリリアなら、気丈でプライドの塊みたいな態度なのに——なぜか、まるで別人のような無邪気な反応を見せている。「な、なんでそんなにくっついて……」 思わず戸惑いながら言葉を返すと、リリアはふわりと微笑む。「だって、ユウ様がそばにいらっしゃると……安心できますもの。」 その言葉が、思いのほか真っ直ぐで—— ——不意に、俺の胸が軽く鳴る。 何だこれ。変な感じだ。 しかし、すぐに気配を感じた。「っ、魔獣——!?」 俺はリリアを軽く抱き寄せ、反対の腕をかざす。 魔法の陣が瞬く間に発動し、閃光が飛ぶ。 魔獣の咆哮が短く響き、次の瞬間に魔獣は沈黙しその場に横たわる。 戦場に、ひとつの静けさが戻る。 ——そして、俺の腕に抱き着いたままのリリアが、目を輝かせて俺を見つめた。「すごいですわ……! ユウ様が戦うお姿を、こんなに間近で……見れるなんて!」 リリアは、何の飾りもなく無邪気に喜び、キャッキャと声を上げる。 それはまるで——普通の女の子のような反応だった。 俺はじっと彼女を見つめる。
湿った土の匂いと、葉が揺れる微かな音。しかし、その静寂の裏には確かに異質な気配が漂っている。「……っ!」 レオの肩がびくりと跳ねた。 魔獣の咆哮が響き渡り、地面が揺れる。近衛兵たちは即座に動き、戦闘態勢へと移った。 しかし、ただ守るだけではない。 彼らの役目は単なる護衛ではなく 「王子の活躍の場を確保する」 という難しい任務も抱えていた。 魔獣の巨体が木々の間から姿を現した。唸り声とともに鋭い爪が地面をえぐり、空気を引き裂く。 レオは怯えながらも、ちらりと近衛兵の動きを見る。「……ボ、ボクもやる!」 そう言いながら、ショートソードを握る。しかし、手にはわずかな震えが残っている。 近衛兵たちは巧みに動き、あからさまに倒すのではなく、攻撃をいなすように戦う。魔獣の動きを制限し、レオが攻撃しやすい形に誘導する。「レオ様、今です!」 促される形で、レオは剣を振り下ろした。ザシュッ! 刃が魔獣の肩をかすめる。決定打ではないが、それでも 「確かに攻撃が通った」 という手応えがあった。 レオの目が輝いた。「やった……やったぁ!」 怯えは少しずつ薄れ、楽しさが込み上げる。しかし、魔獣はまだ健在である。「調子に乗るなよ、レオ。次の動きがくるぞ!」 ユウが声をかけた瞬間、魔獣が大きく跳躍する。 近衛兵たちが即座に反応し、レオの前へ飛び出した。 鋼の剣が閃き、魔獣の爪を弾く。その間に、レオは息を整え、次の攻撃のタイミングを測る。 ——戦場は混沌としている。しかし、レオの中には 確かに戦う意志が生まれ始めていた。 森の戦場は徐々に整備され、討伐の拠点が構築されていく。 レオの戦闘は近衛たちに任せても問題なさそうだが、万が一に備え、目の届く範囲で自由に動かせる。魔法が届く距離にいれば、即座
大所帯になってしまい、物資も大量になり馬車の隊列を作る事態となっていた。まるで戦場に向かう隊列だった。俺が前回「料理人も必要だな」と言ってしまい、俺が喜んでいたので今回も用意されていたのだ。 リリアは同じ馬車に乗ろうとしていたが、リリアのお付が「王子殿下と同じ馬車は……さすがに控えた方が。」と言われ不満な顔をして自分の馬車へ乗り込んでいた。 二人だけの広く豪華な馬車にレオと二人っきりになってしまった。だが、お互いに気を遣うこともなく寛いでいた。「なあ、なんで俺に懐いてるんだ?」 ずっと抱えていた疑問。 初めて出会ったとき、レオは冷たい目線を向け、意地悪そうな表情で試すような言葉を投げかけてきた。 それが今ではデレデレの笑顔で、俺の膝枕で甘えてきて寝転がっている。完全に警戒もしておらず、近衛も護衛も同席をしていない。「ん? ユウ兄が大好きだからぁ♪」「だから、なんで好きなんだよ? 初めは、挑戦的と言うか絡んできたよな? 実力を見ようとして。」「あぁ~そうだったっけぇ~? えへへ♪ エリー姉の旦那さんだしぃ~いいじゃん♪ ボクさぁ……エリー姉は姉弟だけどぉ……一緒に過ごしてなくて、兄弟って知らないんだよね。今まで、甘えられる人もいなかったしぃ……こんな関係、受け入れてくれる人いなかったんだぁ。普通に怒ってくれて、普通に接してくれる人がさぁ。」「そっか。」レオの言葉に納得してしまった。 甘えさせてくれる兄弟か。兄弟でも、ここまで甘えないと思うが……ま、レオの兄弟のイメージなんだろうな。好きにさせてやるか。エリーの弟なんだし。実際に義理の弟なんだからな。 俺の膝にぷにぷにの頬を押し付け、頬ずりをしてくる可愛いレオ。その片方の頬を指で突っつく。 陽が傾き始めるころ、やっと俺たちは森へと足を踏み入れた。 レオは軽装備に身を包み、革の胸当てとショートソードを腰に備えている。彼の小柄な体には過剰な装備は不要で、軽快な動き
問題が解決したリリアたちはなぜか未だにその場に留まっており、リリアはほっとした表情を浮かべている。 ……もしかして、王子が楽しみにしていた冒険に行けるのかを心配していたのか? ユウはふと疑問を抱きながら、リリアへ視線を向けた。「リリアたちは帰ってもよかったんだぞ?」 急に声を掛けられたリリアは、体をビクッとさせた。「……わ、わたしも、同行しますわ。せっかくですもの。興味がありましたし。」 ユウはその言葉に、心の中でため息をつく。 あぁ、これはウソだな。 上級貴族のお嬢様が、冒険に興味があるわけがない。しかも、レオの場合……どうせ駄々をこねて泊まると言い出す。そんな環境で貴族の娘が耐えられるわけがないだろう。 そもそも、この冒険とやらは魔物や魔獣の討伐だ。貴族のお嬢様がそんなことに興味を持つとは到底思えない。 ユウは少し眉をひそめながら指摘する。「冒険といっても、獣や魔獣の討伐だぞ? たぶん……泊まりになると思うが、大丈夫なのか? その前に、両親の許可が出ないだろ……。」 その言葉に、リリアはむぅぅ……と声を漏らし、目を潤ませた。 ……困っている。 それは彼女にとって、屈辱だったのか、それとも単に認めたくないだけなのか——。 こいつもなのか……? レオと同じで無許可で同行するつもりだったのか? みんなして、俺を犯罪者にしたいのか!? 公爵令嬢を無断で連れまわし、外泊させたとなれば……どうなるんだよ。まったく。 ユウは静かにリリアを見つめる。「……わたしが決めることですわ。ユウ様にどうこう言われる筋合いはございませんわよ。」 強気な言葉とは裏腹に、どこか不安そうな声音。 ユウはため息をつきながら、視線をレオへ向ける。 レオは変わらず無邪気に笑っている。「ん……ボクが同行を許可するっ♪ 人数がいっぱいの方がたのしぃー」『……楽しいのは、お前だけだろ!』と声に出したい気持ちをぐっと堪えつつ、俺は周りの様子を伺う。
王子自らが「許す」と発言したことで、リリアの緊張は一気に解けた。「お、お許し感謝申し上げます。王子殿下……」 かしこまった口調で声を震わせながら、深々と頭を下げるリリア。 これまでの勝気な態度は消え、礼儀正しく従うべき存在へと完全にシフトしていた。 ユウは、それを見つめながら、近衛兵へと視線を向ける。「リリアたちへの罪は、なくなったよな。手を出すなよ。」 静かに念を押すと、近衛兵たちは黙って頷いた。 その瞬間、リリアの表情がぽわーっと変化する。 安堵と共に、頬がほんのり桃色に染まり、ユウへ向けられる視線が変わった。 驚きの中に、何か別の感情が滲んでいる。 ——惹かれた。 今まで、彼女にとって誰もが自分に従い、気を遣う存在だった。 だが、ユウは違った。素っ気ない態度をとり、なのにリリアを庇い、危険を顧みず堂々と場を仕切り、圧倒的な存在感を持っていた。 それが新鮮だった。 それが……気になる。 それに——惹かれる。 リリアは、自分の心が静かに揺れるのを感じながら、ユウをじっと見つめていた——。 それに続き「手を出すなよー! ボクも怒るからぁっ」レオが俺のまねをして言ってきた。つい可愛くて、レオの頭をガシガシと再び撫でると、撫でられたレオが嬉しそうな顔をして見つめてきた。 近衛や護衛たちは王子の言葉に従い、恭しく膝を折って「かしこまりました」と返答した。その様子を眺めながら、俺は改めてレオの権力の重みを感じる。 王子という肩書きを持ち、彼の言葉一つで場が動く。そんな存在を、俺はこうして頬をむにむにと摘まんでいるわけだが——。「なぁ、冒険に出るのは構わないが、保護者に言ってきたのか?」 前回はちゃんと了承を得てから出かけた。だが、無断で王子を連れて森へ行くとなると話が変わってくる。万が一